「笑われたくない」は人間らしさの証〜ゲロトフォビアと社会性、恐怖麻痺反射、自律神経の深いつながり〜
■ ゲロトフォビアってなに?
最近「ゲロトフォビア(gelotophobia)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。
これは「笑われることに対する強い恐怖」を指す心理学的概念です。
でも実は、この“笑われたくない”という感情は、
特別な人だけのものではありません。
■ ほぼ全員に「ゲロトフォビア傾向」がある
笑われたくない。失敗して人からバカにされたくない。
…これはほぼすべての人が持っている感情です。
なぜなら、人はもともと「群れで生きる生き物」。
社会の中での“位置づけ”や“評価”に敏感であることが、生き延びるために必要だったからです。
つまり、「笑われるのが怖い」という感情は、
人間の社会性の証そのものなのです。
■ 社会性の裏返しとしてのゲロトフォビア
もしこの“笑われたくない気持ち”がまったくなければ、
・人との距離感を気にしない
・失敗を繰り返しても気づかない
・空気をまったく読めない
という状態になるかもしれません。
つまり、ゲロトフォビア的傾向がゼロ=社会性の弱さとも言えるのです。
■ 「ゲロトフォビア」の診断とは?
とはいえ、誰しもが持っているこの感情が、
学校に行けない・人前で話せない・外出できないといったレベルにまでなれば、それは日常生活を著しく制限する「障害」として扱われます。
ゲロトフォビアと診断されるのは、
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失敗や人前で話すことが極度に恐怖
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周囲の笑いを「自分への攻撃」と誤解する
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恐怖により社会参加が困難になる
といったケース。
つまり、感情の強さそのものではなく、
行動の制限が診断の基準になります。
■ 自閉スペクトラム症との関係
自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちは、
このゲロトフォビア傾向が強く出ることが多いです。ある研究では「ASD児の7割以上が“笑われること”に過敏」とも。
一方、残りの3割の子どもたちは、
そもそも「笑いの空気」に気づいていない、
またはその文脈をうまく読み取れない場合も。
つまり、
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過敏すぎて苦しい子もいれば
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鈍感すぎて誤解される子もいる
それぞれ課題があるのです。
もちろん、心理的な安定を持っていて過剰なゲトロフォビアがないということもあるでしょう。
■ 恐怖麻痺反射とゲロトフォビア
この「笑われるのが怖い」という過敏さの背景に、
原始反射の未統合が関わっているケースもあります。
とくに関係が深いのが、**恐怖麻痺反射(Fear Paralysis Reflex)(正式には子宮内反射ですが、わかりやすく原始反射と呼ばせてもらっています)**です。
この反射は、胎児期から存在する“命を守る反応”で、
強い刺激に対して身体が凍りつくように反応する働きがあります。
この反射が統合されないまま残っていると:
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周囲の笑い声を「危険」と感じて萎縮
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予想外の状況に過剰にフリーズ
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自己表現や挑戦が極端に苦手になる
というように、ゲロトフォビア的な反応が強化されやすいのです。
■ ポリヴェーガル理論で読み解くと…
ポリヴェーガル理論では、自律神経の状態を:
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交感神経(闘う・逃げる)
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背側迷走神経(凍りつく・シャットダウン)
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腹側迷走神経(つながり・安心)
という3つのルートで説明します。
ゲロトフォビアが強く出ている人は、
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交感神経で緊張しっぱなし
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そして同時に背側迷走神経でフリーズ
という、強度の強いストレス反応の同時発動が起きている可能性があるでしょう。
■ 原始反射アプローチで整う自律神経
恐怖麻痺反射やモロー反射などの統合エクササイズは、
**脳と身体を結ぶ「安全の通路」**を少しずつ育ててくれます。
身体が「今は安全だ」と感覚的に感じることで、
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笑い声にも過剰反応しなくなる
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自己表現がしやすくなる
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他者との関係性にも余裕が出てくる
こうした変化を私は何人もの子どもたちの中に見てきました。
■ まとめ:ゲロトフォビアは「人間らしさの証」でもある
ゲロトフォビアは、社会性の副作用のようなもの。
それを持っていること自体が、人とつながろうとする証拠でもあるのです。
だからこそ、過敏さや不安に苦しむ子どもを見たときは、
「その子が持つ社会性の感受性」にも目を向けてみてください。
そして、「笑われることが怖い」の奥にある、
神経系からのSOSに、優しく寄り添える大人でありたいです。