全国で広がる「5歳児健診」。栃木での20年の歩みから見えてきた、子どもと親御さんの未来を守る“本当の役割”

今、全国の市区町村で導入が広がりつつある「5歳児健診」。

初めて事業の立ち上げや実施に携わる自治体の保健師さん、園の先生方は、手探りの中で日々試行錯誤されていることと思います。

実は、私が心理士として関わってきた栃木県では、全国に先駆けて約20年前から5歳児健診に取り組んできました。私自身も複数の市町で、園への巡回健診や相談支援の現場に長く携わらせていただいています。

「5歳児健診は、その場ですぐに白黒をつけたり、問題を解決したりするための場ではない」

これまでたくさんの保健師さん、園の先生方、そして親御さんたちと向き合ってきた中で強く感じていることです。新しく取り組む自治体や園の皆さま、そしてこれから健診を迎える親御さんの心が少しでも軽くなるヒントになればと思い、これまでの歩みを振り返ってお伝えしたいと思います。

1 最初の10年は葛藤の連続でした

今でこそ地域に根づいてきた5歳児健診ですが、スタート当初の10年ほどは、決して順風満帆ではありませんでした。

栃木県では、保健師や心理士が保育園・幼稚園・こども園に直接伺う「園訪問型」で進められてきたケースが多くありました。
しかし、園側からすると「先生方の指導風景をチェックされているように感じてしまう」「担任の先生が年中児全員のアンケートを詳細に記入しなければならず、業務負担が重い」といった戸惑いや負担感が非常に大きかったのです。

そして、健診後に個別の相談や療育・専門機関の案内があった際、親御さんにとっても突然のことで動揺が大きく、「なぜ園でそんなことを言われなければいけないのか」と、園と親御さんの間で関係がギクシャクしてしまうこともありました。

何より、その矢面に立って奔走していた保健師さんの負担も莫大なものでした:

  • 訪問する心理士の確保や予算の折衝
  • 各園との日程調整やアンケートの配布・回収
  • 事前の丁寧な連絡調整や個別相談の段取り
  • 健診後の丁寧なお手紙や記録の作成、療育機関への連携……

何かとセンシティブで角が立ちやすい発達のテーマだからこそ、あちこちに神経を配り、ときには親御さんの不安や苛立ちを真正面から受け止めることもありました。

それでも保健師さんたちが踏ん張り続けたのは、「少しでも早くお子さんの生きづらさに気づき、小学校に上がる前に必要な手立てを届けてあげたい」という、子どもたちの未来への強い願いがあったからです。
おせっかいに思われる瞬間があったとしても、その関わりがあったからこそ、就学前に適切な支援につながってグンと成長したお子さんや、小学校入学後に安心できる環境でスタートを切れたお子さんがたくさんいました。

2 「健診そのもの」でどうにかしようと思わなくていい

長くこの事業に携わってきて痛感するのは、「5歳児健診というイベント単体で、すべてをどうにかしようと思わないこと」の大切さです。

年数を重ねる中で一番大きく育った果実は、「市区町村と保育園・幼稚園との信頼関係」でした。

お互いに子どもの様子を率直に語り合える素地ができてきたことで、園の先生方も「健診の場をどう活かすか」を自治体と一緒に考え、普段から親御さんの気持ちに寄り添いながら温かく働きかけてくださるようになりました。

行政と園がチームになり、時間をかけて「地域全体で子どもを育てる土台」を耕していくことこそが、5歳児健診の本質だと感じています。

3 就学前に「そっと安心の布石を置いておく」ことの意味

親御さんにとって、我が子の発達について何か言われることは、とても勇気がいることであり、心が揺れるのは当然のことです。誰だって「うちの子は大丈夫」と思いたいものです。

だからこそ、5歳児健診での気づきは「いま、急いで結論を出すためのもの」ではなく、「就学後に向けた、そっと置く優しい布石」なのだと捉えていただきたいのです。

小学校の現場では、入学後に初めて集団生活のつまずきが表面化することが少なくありません。
その際、就学前まで「何も言われてこなかった」「園では普通に過ごせていた」という状態から急に学校で課題を指摘されると、親御さんはショックのあまり「担任の先生の指導が悪いのではないか」と孤立してしまったり、受け入れるまでに大きな葛藤を抱えてしまったりします。硬くなってしまった土を後から掘り起こすのは、親御さんにとっても先生方にとっても本当にエネルギーがいることです。

🌱 “布石”がもたらす安心のきっかけ

「保育園までは何もなかった」というのではなく、就学前に「子どもがこんなことでちょっと困っていたかも」「こんな手立てがあると安心かもね」という布石が一つあるだけで、入学後にお子さんが困った際――

「あ、そういえば園の時にも少し言われていたな。
やっぱりこの子には、今こういう手助けが必要なのかもしれない」

と、親御さん自身が納得して支援へ手を伸ばすための大切な“きっかけ”になります。

小学校の先生方にとっても、母子保健や園からのバトンが事前につながっていることは、お子さんを早期から適切に見守る上で本当に大きな助けになっています。

4 最後に:灯火を絶やさず、つながり続けるために

熱心に取り組んできた栃木県でも、近年の感染症の流行などで実施が難しくなり、規模を縮小せざるを得なかった地域もあり、園と市町の母子保健(保健師さん)との関係が薄くなってきています。

子どもの発達のサインに早期に気づき、家庭と園と学校が手を取り合う仕組みは、これからの社会にとってかけがえのない財産です。

※私自身は、日頃から栄養面や原始反射といった身体の土台を整えるアプローチを大切にしていますが、どんなアプローチを選ぶにしても、まずは周囲の大人が連携してお子さんのサインを温かくキャッチできる環境があってこそだと感じています。

新しく5歳児健診をスタートする市区町村の皆さまへ

最初は園との調整や親御さんへの伝え方に悩むことも多いはずです。でも、焦らず、関係機関が対話を重ねて信頼を育てていけば、それは必ず子どもたちの未来を支える力強いネットワークになります。

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