犯罪を憎みながら、再犯を育てているのは私たちかもしれない

第17回司法矯正領域研修会 受講レポート

犯罪を憎みながら、
再犯を育てているのは
私たちかもしれない

― 第17回司法矯正領域研修会「犯罪・非行からの立ち直り支援に学ぶ」を受講して

私たちは、犯罪を犯した人に対して、どのような目を向けているでしょうか。

「怖い」 「関わりたくない」 「自分たちとは違う人間だ」

そう感じることもあるでしょう。

そして、私たちの多くは、自分自身を犯罪の加害者ではなく、犯罪から守られるべき側の人間だと考えています。

しかし、私は今回の研修を受講して、改めて考えました。

私たちは本当に、犯罪とは無関係な善人なのでしょうか。

犯罪を犯した人が社会に戻ろうとしたとき、その人に冷たい視線を向け、拒絶し、孤立させる。

そうした社会のあり方が、再犯の危険性を高めているとしたら。

犯罪を非難する私たち自身が、次の犯罪が起こりやすい環境をつくる、間接的な加害者になっているのではないでしょうか。

もちろん、他者を警戒することや距離を置くこと自体が、直ちに加害行為になるわけではありません。

しかし、私たち一人ひとりの判断が積み重なったとき、社会全体で何が起きているのか。

そのことを考えてみたいのです。

📊 約3割の再犯者に、約6割の犯歴が集中していた

法務総合研究所の『平成19年版 犯罪白書』には、興味深いデータがあります。

昭和23年から平成18年までの犯歴記録から100万人を抽出して分析したところ、再犯者は対象者の28.9%でした。

一方、その再犯者による犯歴件数は、全体の57.7%を占めていました。

28.9%再犯者の割合
(対象者100万人中)
57.7%再犯者による犯歴件数
(全体に占める割合)

約3割の再犯者に、約6割の犯歴が集中していたのです。

これは過去の犯歴記録に基づく調査であり、現在の犯罪全体の割合を示すものではありません。

しかし、再犯防止がいかに重要かを考えさせられる数字です。

私はこのデータを見て、こう思いました。

再犯を繰り返す人たちが、犯罪に頼らず社会の中で生きていけるようになったなら、どれほどの犯罪を防ぐことができるのでしょうか。

さらに、法務省が公表した再犯防止に向けた総合対策では、2005年から2009年までの保護観察対象者について、無職者の再犯率は有職者の約5倍だったと報告されています。

約5倍無職者の再犯率は
有職者の約5倍
(保護観察対象者 2005〜2009年)

また、帰住先の確保が難しいことも、再犯防止の大きな課題として指摘されています。

これらの数字だけで、社会的な偏見が再犯を直接引き起こしていると証明できるわけではありません。

しかし、仕事や住まい、周囲とのつながりが、立ち直りにとって重要なことは明らかです。

では、犯罪歴のある人が、その生活基盤を築くことを難しくしているのは、誰なのでしょうか。

🪞「あの人は前科があるから」という視線

例えば、罪を償い、社会に戻ってきた人がいるとします。

  • 仕事を探しても、犯罪歴を理由に断られる。
  • 住まいを借りることも難しい。
  • 近所の人からは警戒される。
  • 同僚には距離を置かれる。
  • 困っても、相談できる相手がいない。

その人は、もう一度社会の一員として生きたいと思っているかもしれません。

しかし、社会の側が、なかなかそれを許さない。

もちろん、採用や住居の提供には現実的な事情がありますし、人々が安全を確保することも重要です。

けれども、個々の事情を超えて、過去の犯罪歴だけでその人の現在と未来まで決めつけてしまうことはないでしょうか。

私たちは「再犯をしてほしくない」と願っています。

それなのに、再犯せずに生活するために必要な条件を、社会の側が奪ってしまっているとしたら。

なんという矛盾でしょう。

私たちは犯罪を防ごうとしているつもりで、実は再犯が起きやすい環境をつくっているのかもしれません。

これは、決して犯罪者を擁護するための問いではありません。

私たち自身が、社会の一員として、自分の行動の影響を考えるための問いです。

🌱 犯罪者の家族も、社会から孤立させられる

今回の研修では、本人と保護者との関係の大切さも語られました。

しかし、保護者への働きかけは、容易ではありません。

保護者自身が厳しい生育歴を持ち、離婚やDV、経済的問題など、さまざまな困難を抱えていることがあります。

さらに、私はもう一つの問題があると思います。

犯罪を犯した人の保護者もまた、社会から冷たい目を向けられることがあるということです。

「あの犯罪者の親」
「あんな子どもに育てた親」

そうした視線の中で、保護者自身が地域社会から孤立し、誰にも相談できなくなってしまうことがあります。

本人の立ち直りのためには家族の支えが重要だと言いながら、その家族まで孤立させてしまう。

ここにも、社会の矛盾があるのではないでしょうか。

私は、今つながることのできる保護者を大切にし、保護者同士のピアグループなど、安心して支え合える場を育てていくことが重要だと思っています。

一人の保護者が元気になる。

その変化が子どもにも伝わる。

そして、周囲の人にも希望を与える。

そんな小さな変化が渦となり、やがて大きな支え合いの輪になっていくのではないでしょうか。

⚖️ 加害者を理解することは、加害行為を許すことではない

ここで、明確にしておきたいことがあります。

私自身、中学生のときに誘拐されそうになった経験があります。

その出来事を境に、記憶力や集中力が落ち、学校の成績も下がり、孤立感が強まりました。私の人生に長く影響を及ぼした、大きなトラウマです。

犯罪被害は、事件が終わっても、その後の人生に深刻な影響を残すことがあります。

まして、大切な家族を失った方や、重い傷害を負った方、そのご家族にとって、加害者の行為を受け入れることがどれほど難しいか。

その苦しみを、軽々しく語ることはできません。

被害者やご家族に、加害者を理解することも、許すことも求めるべきではないと思います。

加害者の背景を理解することと、その行為を容認することは、まったく別のことです。

加害者には自らの行為に対する責任があります。そして、被害者の尊厳と回復は守られなければなりません。

そのうえで、私が立ち直り支援の重要性を考えるのは、これ以上、同じような苦しみを経験する人を増やしたくないからです。

🤝 何年たっても、変わらずに味方でいてくれる人

今回の研修で心に残ったのは、人と人との関係の重要性でした。

二宮先生のお話からは、少年たちの立場に思いを寄せながら、一貫した態度で関わり続ける支援者の姿を感じました。

人を信じられず、繰り返し相手を試すような行動をする人がいます。

それでも態度を変えず、関わり続ける人がいる。

その経験は、人が他者を信頼し直すための大切な土台になると思います。

野田詠氏先生のお話にも、深く心を動かされました。

一見すると怖そうなお顔立ちなのですが、鰻重にまつわるお話をはじめ、日常の中にある純粋な愛や優しさを見出す、その細やかなまなざしが印象的でした。

同じ体験を何度も語ってこられたでしょうに、聴く人の心を動かすことができる。

その力こそが、人の立ち直りを支える力なのだろうと感じました。

また、坂野先生のお話では、恐れや罪悪感、ざらざらした感情、人とのつながりの中で、人が少しずつ変化していく過程を考えさせられました。

立ち直りは、一度の面談や短期間の支援だけで成し遂げられるものではないでしょう。

何年もの時間をかけて、社会の中に自分の居場所を築いていく。

そのとき、変わらずに自分を支えてくれる人がいることは、どれほど心強いことでしょう。

🤖 AIが明らかにするかもしれない、人間社会の非合理性

AIが進化していく中で、私は、人間社会の非合理性や理不尽さが、これまで以上に明らかになる可能性があると思っています。

  • 私たちは犯罪をなくしたいと願っている。
    しかし、犯罪歴のある人を孤立させることで、結果的に再犯を防ぎにくい社会をつくっているかもしれない。
  • 私たちは家族による支えが重要だと言いながら、犯罪者の家族にまで冷たい視線を向けているかもしれない。

そのような矛盾を、私たちはどれほど認識しているでしょうか。

AIも万能ではなく、人間社会の偏見を反映してしまう可能性があります。

それでも、膨大なデータを分析し、私たちが当たり前と思っている判断を検証することで、社会の矛盾を明らかにする手助けになるかもしれません。

私たちが「正しい」と思っている行動は、本当に望ましい結果につながっているのでしょうか。

🌈 私たちは、本当に傍観者なのでしょうか

犯罪を犯した人には、責任があります。

しかし、その人が立ち直れるかどうかは、本人の努力だけで決まるものではありません。

家族友人職場地域社会

私たち一人ひとりの態度も、その人が再び社会の中で生きていけるかどうかに影響します。

他者を傷つけた人が、かつて誰かに傷つけられていたこともあるでしょう。

そして、その人を責めている私たち自身が、気づかないうちに誰かを傷つけていることもあるのではないでしょうか。

私は、誰もが犯罪歴のある人を無条件に受け入れるべきだと言いたいわけではありません。

安全の確保も、被害者の権利も大切です。

ただ、私たちの偏見や無関心が、人の立ち直る道を閉ざしていないか、考えてみたいのです。

自分は何もしていない。だから、自分は加害者ではない。

そう言い切れるだろうか?

私たちが社会の中で誰かを孤立させ、その孤立が新たな犯罪の危険性を高めているとしたら。

私たちは、再犯を生み出す構造に加担しているのかもしれません。

そのことに気づいたとき、初めて断ち切れる悪循環があるのではないでしょうか。

犯罪のない社会を望むのであれば、犯罪を犯した人が、再び犯罪をせずに生きられる社会をつくることにも、私たちは目を向ける必要があると感じるのです。

🌿 脳と心がゆるむ学びを、あなたのペースで

ブレインジム101講座や個別セッションで、心と身体が整う体験をご一緒しませんか。

ブレインジム101講座に申し込む セッションに申し込む

🏫 保育園・幼稚園・児童発達支援施設の皆さまへ

臨床心理士・公認心理師が、発達支援研修・職員育成研修を行っています。現場の「困った」を、子どもの理解と支援のヒントに変える研修をご用意しています。

研修について問い合わせる

📚 参考資料・参考文献

※本記事は研修を通じて得た学びと、筆者自身の考察をまとめたものです。講師の先生方の発言をそのまま再現したものではありません。

Follow me!